研究成果

プレスリリース

遺伝的アルゴリズムによる結晶構造予測

金沢大学の小田竜樹教授のグループ(理工学域数物科学類 計算科学コース 計算ナノ科学)では、遺伝的アルゴリズムのプログラム開発を行ってきた。密度汎関数理論に基づく十分な予測力を持った計算手法である,第一原理電子状態計算手法(*1)と組み合わせることにより、最安定結晶構造の探索に利用できるようになってきた。このほど出版された研究論文
掲載誌:Scientific Reports (出版元:Nature Publishing Group)
題名:Superconducting H5S2 phase in sulfur-hydrogen system under high-pressure
邦訳:高圧力下での硫黄-水素系における超伝導H5S2相
著者:Takahiro Ishikawa1, Akitaka Nakanishi1, Katsuya Shimizu1, Hiroshi Katayama-Yoshida2, Tatsuki Oda3, and Naoshi Suzuki4
1.大阪大学基礎工学研究科附属極限科学センター、2.大阪大学基礎工学研究科、3.金沢大学理工研究域数物科学系、4.関西大学システム理工学部
DOI: 10.1038/srep23160
では、金沢大学で開発された計算プログラムが、硫黄-水素系超伝導H5S2相の結晶構造解明に役立った。物質の超伝導機構や特性を解明するには、結晶構造の解明が必要不可欠であり、このプログラムがなければ、超伝導転移温度等の超伝導特性の議論に進めなかった。 これまでにも、以下の研究において、研究室で開発された遺伝的アルゴリズムのプログラムが効果的に使われている。
開発された遺伝的アルゴリズムのプログラムを用いた研究
『科学新聞(2016年4月15日付)報道』

【用語説明】

※1 遺伝的アルゴリズム

最適解を探索するためのアルゴリズム(処理手順)のひとつ。生物の進化過程を工学的に模範したアルゴリズムであり、選択、交叉、突然変異などの操作を集団の個体にランダムに適用させることで、より優秀な個体へと進化させていく。汎用性の高い方法のため様々な分野で活用されており、本研究ではこれを最安定結晶構造の探索に利用している。

※2 第一原理電子状態計算手法

対象となる物質を構成する元素の原子番号と系の結晶構造を入力し、実験データを参照せずに量子力学の基本法則に立脚した理論を使って系の電子状態を求める計算手法。物理機構の解明や物性の予測を高い精度で行うことができるため、実験に先駆けたデータの取得や、実験で得られたデータの検証に活用されている。超高圧極限環境下では実験が困難となるため、第一原理計算による予測が有効な手段となる。


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大阪大学のプレスリリース
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電子の全性質制御に初成功

金沢大学の小田竜樹教授(理工学域数物科学類 計算科学コース)、千葉大学の坂本一之准教授を中心として国際共同研究チーム(日本・韓国・スウェーデン・ドイツ・イタリア)は、電子が有する3つの性質(電流の担い手である電荷、磁石の起源であるスピン、固体中での電子の動きを制御するバレー(谷)の自由度)を組み合わせることに初めて成功しました。ほとんどの半導体デバイスの材料であるシリコンを用いて得たこの結果は、現在のシリコンエレクトロニクスデバイスを次世代のシリコンスピントロニクスデバイスにつなげる重要な足がかりとなるものです今後のスマートフォンやタブレットなど情報端末機器の制御や、パソコンでの論理演算の高効率・省エネルギー化の開発を加速させるものと期待されます。

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半導体表面上で電子のコマ回し- スピントロニクスにブレークスルー! –

千葉大学の坂本一之准教授、金沢大学の小田竜樹准教授と広島大学の木村昭夫准教授を中心とした研究チームは、半導体表面に寝ていると考えられていた電子スピンが、突如表面に屹立することを世界で初めて観測しました。この実験観測に際し、理工研究域数物科学系所属の小田竜樹准教授は、観測の初期段階から最新の理論計算手法により”屹立する電子スピン”の存在を示唆し、屹立スピンの重要な起源が対称性であることを突き止めました。

 

ImPACT-計算科学を用いた電圧スピントロニクス材料の開発-

研究者募集

研究者の募集(博士課程大学院生)を行っています。密度汎関数理論に基づいた第一原理的電子状態計算の経験者なら大歓迎ですが、採用にあたり、 研究手法についての経験は問いません。上記研究分野における研究開発や磁気デバイス、または磁性理論や第一原理計算の研究に対する熱意と興味がある方を求めています。応募に興味がある方は、小田竜樹までご連絡ください。

* 図をクリックすると拡大図が表示されます。

小田グループは、金沢大学と国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の契約に基づく、「計算科学を用いた電圧スピントロニクス材料の開発」に関する研究(研究期間H28年4月-H30年3月末(予定))を開始しました。

革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)

本グループのミッションは、次のようなものです。

電圧効果の物理的メカニズムの解明【H27年度~H29年度】
電圧トルクMRAMの主な構成要素である強磁性薄膜を含む積層構造における電圧効果発現の物理的なメカニズムを第一原理計算に基づく計算科学的な手法を用いて解明し、10³ fJ/Vm超の大きな電圧効果(出来れば2 mJ/m²以上の界面磁気異方性において)を得るための材料設計指針を提示します。

『第一原理計算に基づく計算科学的な手法』を用いた解明のために、研究室で開発してきた密度汎関数理論に基づいた計算コードを駆使して、強磁性薄膜の磁気異方性とその電界依存性の計算を推進します。磁性体の磁気異方性は、磁化方向により磁性体の全エネルギーが変化する性質ですが、電子運動に対し相対論効果を考慮したシュレディンガー方程式(ディラック方程式)を解くことにより、磁気メモリ用の強磁性薄膜の基本的性質である磁気異方性エネルギーを正確に計算します。薄膜において、電子密度を与えて電磁気学のポアッソン方程式を正確に解くことにより、外部電界に対する磁気異方性電界効果の評価を行い、研究開発を推進します。

磁気異方性の電界効果の研究は、理論的研究でも実験的研究でも、未開拓な研究領域で、基礎物理学を礎に計算科学的な手法をベースにした研究が求められています。

ImPACT佐橋プロジェクト

本研究開発は、ImPACT佐橋プロジェクトのプロジェクト2「電圧トルクMRAM」の公募研究開発の1つとして実施されます。

プロジェクト2: 電圧トルクMRAM
本プロジェクトはこの研究開発プログラムの基幹をなすものである。本プロジェクトでは、これまでの電流駆動型の不揮発磁気メモリ(MRAM)に代わり、著しい省エネルギー特性を有する電圧駆動型の電圧トルクMRAMを実現する画期的な電圧スピントロニクス技術を研究・開発することにより、究極のノーマリーオフIT技術の実現に供する。

 

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