電子は、質量、電荷の他に, スピン角運動量という粒子固有な物理量を持っている。スピン角運動量は磁場に応答する磁気モーメントの起源であり、電子は磁場中で2つの異なったエネルギー状態に分離している。一方、電荷をもつ電子が、軌道運動することにより、この軌道電流が磁場を生み出す。したがって、電子のスピン磁気モーメントは、軌道電流の生み出す磁場と互いに相互作用(力)をおよぼし合う。軌道電流は、電子の軌道角運動量に置き換えて述べることができて、この相互作用は、スピン軌道相互作用と呼ばれている。この相互作用は、常に存在しているが、もともと電磁気作用中でも磁気的作用を媒介にしているため、電気的な作用よりも極端に小さなエネルギーにより支配されている。そのため普段はあまり意識することがないかもしれない。しかしながらこのエネルギーの微小さは、将来の低エネルギー消費化社会実現のために欠かせないものである。このスピン軌道相互作用を積極的に、電子工学(エレクトロニクス)へ応用しようとする分野をスピンエレクトロニクスである。





 今回発表した研究成果では、シリコン材料を用いたスピントロニクスにおいて重要なブレークスルーを達成した。それは、シリコン材料において、100%偏極した(それぞれ完全に、右回りスピンと左回りスピンが分離した)半導体のバレー(谷)を構築して、その間の散乱がほとんど発生していないことを実証したのである。このことは、2種類のバレーにいる電子を分かり易く表した図が、図1と図2である。図1では、左回りのスピン電子が、原子核の周りを右回りに運動しており、図2では、スピンと周回運動の回転が両方とも逆になっている。この2種類の電子がお互いに移り変わったりする確率があると、散乱が起きて、その結果、エネルギーの散逸につながってしまう。図3には、振動する原子核における散乱の例が示されているが、散乱がおきると電子のエネルギーが、原子核などの運動エネルギーに移り変わってしまい、温度として大気中へ逃げてしまう。こういった意味で、今回の研究は、右回りスピン電子と左回りスピン電子が別々に流れることが可能な状態を実証したと言える。

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